数学」カテゴリーアーカイブ

「週刊 代数的実数を作る」創刊

コンピューター上で実数を取り扱うには、いくつかの方向性がある。普通は浮動小数点数によって近似することが多いと思うが、多倍長計算を始めとする、「コストをかけてでも正確に」計算するという方向性もある。

そのような「正確に取り扱える」実数のクラスとしては、整数(多倍長整数)や有理数はある程度普及していると思う(標準で備えているプログラミング言語がある)。それよりも広いクラスとして、代数的実数、つまり(整数または有理数係数)代数方程式の根となるような実数全体、というものがある。

代数的実数が計算機で取り扱えるということ自体は割と知られた事実だと思うが、実装は割と大変で、工夫の余地がある。有理数のように「GCD さえ実装すればよい」というものではない。

かくいう私も最近までその辺を真面目に勉強しようとは思っていなかったわけだが、何となくモチベーションが湧いてきたので、代数的実数に関するアルゴリズムを勉強しつつまとめたものを記事として Web 公開してみようかと思った次第である。

実装には筆者の好みで、 Haskell を使う。実際のところ、 Haskell による代数的実数の実装は既にあるようだが、まあ気にしない(自身の勉強が主目的なので)。

というわけで、以下のページで公開している:

https://miz-ar.info/math/algebraic-real/

「週刊」と名乗っているが、毎週末に更新することを目指している。果たしていつまで続くかは不明である。 続きを読む

Catmull-Rom スプライン曲線についてのメモ

たのしい複素積分」や「わくわく解析接続」では、マウス(またはタッチ操作)の入力から曲線を構成する際に Catmull-Rom スプライン曲線を使っている。この Catmull-Rom スプライン曲線についてのメモを書いておく。あくまで備忘録であり、 Catmull-Rom スプラインを知らない人向けの記事ではない。 続きを読む

解析接続っぽいことができる Web ページ(わくわく解析接続)を公開した

対数関数や平方根のような複素関数は、閉曲線に沿って解析接続すると元の関数と値がずれる場合がある。対数関数や平方根であればまだ単純だから良いが、根号の中に多項式等が入るような関数だと、具体的な曲線に対して関数の(ブランチ)を計算するのは少し面倒である。

というわけで、以前に作った複素積分の Web アプリ(ブラウザアプリ)のような感じで、平面に描いた曲線に沿って解析接続してくれるアプリ(Web ページ)を作った。「複素関数で遊ぼう」「たのしい複素積分」に続く、複素関数シリーズ第3弾とでも言おうか。今のところ愛称は設定していないが、気が向いたらページのタイトルを「わくわく解析接続」に変えているかもしれない。→変えた。この記事のタイトルも変更。 続きを読む

0の0乗

「0の0乗」については、数学をやっている人とそうじゃない人で割と認識に差がありそうだと思う。そこで、(まだ青二才の学生ではあるが)数学をやっている者の端くれとして思うことを書いておく。

まず、(たぶん)世間でよく言われている「0の0乗を1とすべき理由」と「0の0乗が不定となる理由」について述べ、それを踏まえて、数学をやる上での「それでも0の0乗を1とする理由」を述べる。 続きを読む

豊穣圏の教科書

最近、豊穣圏(enriched category)という概念に触れることがあって、それの標準的な教科書って何かなあと思ったら、G.M.Kelly “Basic Concepts of Enriched Category Theory”というのがそれっぽくて、しかも無料でPDFをダウンロードできるらしい。

MacLaneのCWMには豊穣圏の名前といくつかの例は出てくるけどちゃんとした定義は出てこない。まあ、ちゃんとした定義を書こうとするとモノイド圏(monoidal category)の定義をしてうんたらしないといけないようだが。

豊穣圏というのは(今の自分の理解で)大雑把に言うと、圏のhom-setに単なる「集まり」以上の構造が入ったものである。例えば、加群の圏には、それぞれのhom-setにアーベル群の構造が入っているので、アーベル群の圏 Ab でenrichされた圏の例となっている。

別の例を挙げると、各hom-setにゼロ射が入っている圏は、それぞれのhom-setに点つき集合の構造(ゼロ射が基点)が入っているとみなせる。つまり、ゼロ射を持つ圏は、点つき集合の圏 Set* でenrichされた圏と言える。

各hom-setに構造が入っていればいいというものではなくて、Ab-enriched categoryだと射の合成が双線形、Set*-enriched categoryだとゼロ射(hom-setの基点)を合成するとゼロ射、という風に、合成の方にも条件が付いてくる。この辺の条件を表現するのに、モノイド圏の構造が必要になる。

ガンマ関数の計算(Lanczos近似)

ガンマ関数とは、みなさんおなじみの、

  • \(\Gamma(z+1)=z\Gamma(z),\)
  • \(\Gamma(1)=1,\)
  • \(x>0\) に対し \(\log\Gamma(x)\)は凸

を満たす \(\def\Complex{\mathbf{C}}\Complex\) 上の有理型関数である。\(\DeclareMathOperator\Re{Re}\Re z>0\) に対しては、以下の積分表示がある。\[
\Gamma(z)=\int_0^\infty t^{z-1}e^{-t}dt
\]

階乗 \(n!\) との関係は\[
n!=\Gamma(n+1)
\]となる。

重要な公式としては、反転公式\[
\Gamma(1-z)\Gamma(z)=\frac{\pi}{\sin\pi z}
\]がある。特に、\(z=\frac{1}{2}\) とおけば \(\Gamma\left(\frac{1}{2}\right)=\sqrt{\pi}\) が得られる。

さて、コンピューターでガンマ関数の値を数値的に計算するにはどうすればいいのか。指数関数とか三角関数だとかは分かりやすい冪級数表示があったから良かったが、ガンマ関数にはそういうのはないのか。

いろいろググって調べた結果、ガンマ関数の近似方法として、Lanczos近似というのがあるらしい。が、ググっているだけではいまいちその実体が釈然としないし、導出方法もよくわからない。なので、Lanczosの原論文(1964)を読むことにした。大学院生という身分は便利なもので、大学の図書館でその論文にアクセスできた。

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