トンデモに対する防衛術

いわゆるトンデモに関して私が思うことを何点か書いておく。

何を問題にしているか

ここで問題にするのは、例えば以下のような表現物である:

  • 初心者にとって有害である。つまり、間違った理解を植え付ける。
  • 誤りを修正したら何も残らない。

すべきではない対処

まず、作者に突撃して撤回させるのはあまり現実的ではない。指摘を受け入れて撤回するなら良いが、「自分の表現物が無意味あるいは有害だった」ことを受け入れられる表現者がどのくらいいるだろうか?あるいは、SNS上でバトルに発展した場合不毛な時間を費やすことになる。

第二に、作者に対する人格攻撃や侮辱的な表現は行うべきではない。具体的に言うと、2021年にプログラミング界隈を騒がせた件(「関数型プログラミングが『銀の弾丸』であるという非常識な常識2022」の感想の言及先)の作者を「漢字1文字+ひらがな1文字+漢字1文字」で呼んだはてなブックマークユーザーが(おそらく)法的措置を取られ、ブックマーク内容を謝罪文に書き換えている事例があった(元記事のはてブは非表示にされたので今は確認できない)。あくまで冷静に、丁寧に間違いを指摘するべきである。

第三に、マイナーな表現物の場合は不用意に言及することによってかえって有名にしてしまう可能性がある。言及は少なくとも「間違いの指摘」とセットで行うべきである(これで「有名にしてしまう効果」を打ち消せるかは私には自信が持てないが、ないよりはマシだろう)。間違いを指摘する側のリソースも有限なので、害が少なそうなら放置でも良いかもしれない。ただし、SNSでバズったり教科書に取り上げられたりしないか、監視はしておきたい。

対抗手段

我々にできそうな対抗手段は、問題の表現物の間違いを指摘する別の表現物を作って、頑張ってそれを拡散させることになるだろう。作者に訂正させるのは現実的ではないので、せめて被害者を減らすことを目的とするのである。

もちろん、問題の表現物が新聞やテレビ放送されたとか、出版社から出版されたとか、そういう強い媒体に載っている場合は被害者はなくせないだろう(媒体に載っている場合は媒体側に抗議するという手もあるかもしれないが、どうだろう)。それでも何もしないよりはマシと信じて対抗するのである。

ちなみに、私が昔書いた

は「脱背理法」で検索すると割と上位に来るようである。

【追記】問題のある出版物が撤回(?)された例としては、共立出版「数学のかんどころ」シリーズの「圏論入門」の事件があった(2018年)。詳しくは

を参照。出版社のページでは「品切れ・重版未定」となっている。私自身はこの本は持っていない。【/追記】

自分がトンデモにならないためには

トンデモに対する防衛術には、自分がトンデモにならない方策も必要だろう。何点か考えたので書いておく。

他の人の意見を聞く・レビューしてもらう

自分の理解を他人に伝えて反応をもらうのは大切である。数学科ならセミナーの重要性はわかるだろう。

本(同人誌を含む)を出すときにレビューワーを募集している光景はたまに見かける。

私はどうか?私は同人誌を書くときにレビューをしてもらったことがない(共同執筆のものを除く)。次に何か書くときはレビューワーを募集するべきか。

専門家に師事する

要するに大学院行け、という感じだ。

まあこれは金も時間も必要なので、誰にでもできることではない。また、可能性は低いが、師事した相手がトンデモだったらどうしようもない。

私はどうか?私は数学の大学院を出たが、数学(それも特定の分野)以外に関してはほぼ独学だ。この点がコンプレックスになっている。

独自の用語はなるべく避ける

独自の用語を乱発すると、「自分の世界に閉じこもっている」ように見える恐れがある。他人とコミュニケーションしたい場合は、既存の(相手にも伝わる)用語で説明できないか考えるべきだ。

それと同時に、既存の用語に別の意味を割り当てるのは避けるべきである。分野が違えばそんなに問題がないかもしれないが、同じ分野でこれをやるとまずい。プログラミングの話で言うと言語によって「コルーチン」の指すものが違う、みたいな残念な話がある。

政治だと「対立陣営の政策を悪く見せるために再命名する」のはよく見受けられる。自分の陣営の結束を固めるためには有効な手段かもしれないが、個人的にはああいうやり方は好かない。

机上の空論ではないことを証明する

どんなに素晴らしく見える論を打ち立てたところで、現実世界に即していないと意味がない。砂上の楼閣ではないことを実験で証明せよ。

数学の場合でも、数値実験できるならしたほうが良い。

プログラミングに関することなら、実際にプログラムを動作させてみるべきだ。

プログラミングの方法論なら、実際に実践して何か作り、うまくいくことを証明するべきだ。

「このワクチンを打つと2年以内に死ぬ」という論なら、周囲の接種者を観察して2年後にどうなっているか確認するべきだ。


「自分がトンデモにならないためには」と題して何点か書いたが、自分がそれを実践できているかというと、怪しい。ここ数年は浮動小数点数オタクと称して色々書いているが、浮動小数点数に関しては全くの独学である。用語の定訳がない場合は良さげな訳を考えることなどを試みているので、はたから見ると結構やばいかもしれない。「専門家」ではなく「オタク」と名乗っているのがせめてもの良心だと思って欲しい。

私がおかしいことを書いていたら、遠慮なく指摘してほしい。指摘しても聞かなそうだったら、この記事の方法で対処してほしい。