圏論の入門書(2018年版)

以前(2014年ごろ)このブログに「圏論の本」という記事を書いたが、あれ以降いろいろな本が出てきたようだ。特に、和書が増えた。

というわけで、この記事では2018年時点で手に入る圏論の本を独断と偏見で紹介する。ここで紹介するのは入門書、和書が中心となり、より専門的な話題に特化した本は省く。

圏論の入門書と一口に言っても、書き方や内容は著者によって様々である。読者にも代数学をやりたい人、プログラミングやロジックをやりたい人、色々いるだろうが、読者のバックグラウンドや興味の方向によって読むべき本は変わる。

読者が適切な本を選択する為に、この記事が(十分なガイドとまではならなくとも)なんらかのヒントを提供できれば幸いである。

適宜、Web上で他の方が書いた書評にリンクを貼る。

入門書、教科書

圏論の歩き方

  • 圏論の歩き方委員会 編 「圏論の歩き方」日本評論社、2015年 [出版社ページ]

「圏論ってどんなことに使えるの?」というのが気になる人は読んどけ。複数の著者によるオムニバス形式で、圏論の概念や応用についていろんな話が書かれている。当然、初見では全部を理解することはできないだろうし、それで問題ない。

圏論の入門書自体は別途用意することになる。

ベーシック圏論 (Basic Category Theory)

  • Tom Leinster, Basic Category Theory, Cambridge University Press, 2014 [出版社ページ]
  • 斎藤 恭司 監修、土岡 俊介 訳「ベーシック圏論 普遍性からの速習コース」丸善出版、2017年 [出版社ページ]

圏論の重要な概念である「普遍性」に関して、「随伴」「表現可能関手」「極限」の3つを柱に据えた入門書である。良さそう。

随伴の話ではストリング図式 (string diagram) にも触れている。

巻末に、このブログ記事と同様の趣旨の「ブックガイド」がある。本だけでなく動画も紹介されている。

Category Theory (Awodey本)

  • Steve Awodey, Category Theory, 2nd ed., Oxford University Press, 2010(初版は2006年) [出版社ページ]

通称Awodey本。英語で問題ないなら入門におすすめ。私(当ブログの著者)はこれで圏論に入門した。

後述するが、邦訳の「圏論 原著第2版」は訳に問題があるようなので注意されたい。

構成としては、圏の定義から始まり、極限、CCC、米田の補題などを経て、随伴関手の章がある種の山場である(印象)。そのあとにモナドと代数の章がある。

CCC (cartesian closed category) と絡めてハイティング代数、直観主義論理や型付きラムダ計算の話が書かれている。また、随伴の章には論理式の量化子(∀、∃)を随伴として扱える、という話がある。したがって、ロジックや型理論に興味のある方は目を通しておくと良いと思う。

この手の学術書(教科書)はタイトルが「その分野そのもの」であることがしばしばあり、そういう場合にタイトルよりもむしろ著者名で呼ばれることがある。この本もその例であり、ツイッターなどのinformalな場では「Awodey本」と呼ばれることが非常に多い。

圏論の基礎 (CWM)

  • Saunders MacLane, Categories for the Working Mathematician, 2nd ed., Springer, 1997(初版は1971年) [出版社ページ]
  • 三好 博之、高木 理 訳「圏論の基礎」丸善出版、2005年 [出版社ページ]

CWMと略される圏論の定番教科書。邦訳のタイトルの「基礎」はどこから出てきた…と言いたいところだが実際基礎なので仕方がない。「基礎」は「入門」を意味しない。

圏論を全く知らないところから入門したい人は、これを読む前に別の本を読んだほうがいいと思う。

内容に関して、圏論の基礎的なところはだいたい書いてあるのだが、豊穣圏について書かれていないなど、現代的な面からすれば不足な面はある(そのような不足する部分は、各自の興味関心に応じて他の文献で補っていくことになるだろう)。

また、書かれた年代が比較的古いため、一部の記法が古いことに留意したい。例えば、随伴関手を F ⊣ G と表記するのは今日では普通(邦訳にはその旨の訳注がある)だが、CWM本文では「F ⊣ G と書く著者もいる」と触れている程度である。あるいは、自然変換の矢印にドットを載せるのもこの本独特である。まあ記法の古さは適宜他の文献でキャッチアップすれば良いだけだが。

「はじまりはKan拡張」による書評:圏論の基礎 – はじまりはKan拡張

Conceptual Mathematics

  • F. W. Lawvere and S. H. Schanuel, Conceptual Mathematics: A First Introduction to Categories, 2nd ed., Cambirdge University Press, 2009(初版は1997年)

仮定する知識が非常に少なく、数学を専門としない学部生や高校生でも読めるように作られているようだ。

逆に言えば数学科でやるような数学と関連する例(位相空間や加群)は含まれていないので、数学科の学生には退屈かもしれない。

書き方の特徴として、講義をそのまま教科書にした感じというか、学生との対話も本文中に含まれている。

圏論的な内容に関して、本編でexponentialとトポスを扱ってはいるが、一般の随伴関手についてはAppendixで触れている程度である。

yoheiwatanabe0606氏による書評(が含まれる記事):圏論(Category Theory)についての覚書: 圏論の基礎を整理する(1): はじめに – 疑念は探究の動機であり、探究の唯一の目的は信念の確定である。

Category Theory in Context

  • Emily Riehl, Category Theory in Context, Dover Publications, 2016

著者ページ http://www.math.jhu.edu/~eriehl/context/ からPDF版が入手できる(出版された版との差異は?)。

圏論の基本的な定義から始まって、普遍性、表現可能関手、極限、随伴を扱っている。その後にモナドと代数の話をして、あの有名な文句「全ての概念はKan拡張である (All Concepts are Kan Extensions)」を題した章でKan拡張を扱っている。

圏論の技法

  • 中岡 宏行 著「圏論の技法 アーベル圏と三角圏でのホモロジー代数」日本評論社、2015年 [出版社ページ]

圏や関手の定義から始まり、加法圏(モノイダル圏と豊穣圏についても軽く触れられている)、アーベル圏を経て、三角圏、導来圏に至る。

ホモロジー代数をがっつりやりたい人におすすめである。

圏と加群

最初は集合と写像の基本的な言葉遣いから始まり、2章で環論や加群の話をしている。圏論の話に入るのは3章以降である。

環と加群の理論に興味があって圏論にも興味がある人は読んでおくと良いのではないだろうか。

数学以外の分野がターゲットな本

上記の本も別に数学者専用というわけではないが、計算機科学者やその他非数学者向けの本も出ているようなので挙げておく。

Basic Category Theory for the Computer Scientists

  • Benjamin C. Pierce, Basic Category Theory for the Computer Scientists, MIT Press, 1991 [出版社ページ]

手元にないので語れない。申し訳ない。

モテメン氏による書評:『圏論の歩き方』が難しかったので『Basic Category Theory for Computer Scientists』を読んだ – 詩と創作・思索のひろば

Category Theory for the Sciences

2013年のバージョン (Category Theory for Scientists) が著者のサイトarXivで公開されている。

非数学者向けを標榜している。Databaseの例がある。

Category Theory for Computing Science

最新の第3版がオンラインで入手できる:http://www.math.mcgill.ca/triples/Barr-Wells-ctcs.pdf


他にも色々ありそうだが、拾っていくとキリがなさそうなのでこれくらいにしておく。

オススメしない本

以下に挙げる本は、購入する前によく考えた方がいい(ネットのレビューを読む、など)。

層・圏・トポス

筆者が大学に入った2011年ごろは圏論の和書がこれと「圏論の基礎」くらいしかなかったが、他に良い入門書が出てきた状況であえてこれを読む意義は少ないだろう。

圏論の内容に関しては、具体例が少ない。層やトポスに関してはどうだろう(SGLあたりを読んどけって感じはする)。

m-hiyama氏による書評:竹内さんの『層・圏・トポス』を読む人達へ – 檜山正幸のキマイラ飼育記

圏論 原著第2版(Awodey本の邦訳)

Awodey本の邦訳。訳がやばいらしい:

Amazonレビュー:「並の読者には無理」★☆☆☆☆

出版社のページから正誤表が入手できるが、2018年12月現在で3ページある。

版を重ねて多少マシになったのだろうか…?誰か確認してくれ

圏論入門(数学のかんどころ 35巻)

  • 前原 和壽 著「圏論入門(数学のかんどころ 35巻)」共立出版、2018年 [出版社ページ]

「圏論 原著第2版」を訳した人の新作なので、発売前から界隈の注目を集めていた。その結果、書店に並ぶや否やTwitterで「間違い探し」を実況される羽目に…↓

前原 和壽著『圏論入門』実況 – Togetter

その結果出版社ページが一時的に消失したり「この書籍は現在お取り扱いできません。」となったり…。

要するに初心者にはお勧めしない。

オンラインの資料

Kan拡張から今夜のおかずまで、圏論の種々の話題が日本語でまとめられている。作者は某数学バトル漫画で主人公を務めており、ここの豊穣圏PDFを印刷して体に貼り付けておけば敵の攻撃をガードできるらしい。

圏論の発展的な話題が非常に抽象的な形でまとまっている。入門に使えるものではないが、ある程度マスターした人には役に立つだろう。

他のまとめ(メタまとめ)

書籍(文書)のほか、オンラインの動画もまとめられるとよかったが、そこまで手が回らなかった。誰か頼む…。

ちなみに、ここに紹介した本(PDF版が自由にダウンロードできるものを除く)で、現時点で筆者が所有している本は以下の5冊:

と、CWMのDRMフリーPDF版である。それ以外(Awodey本など)は大学の図書館で借りて読んだが、入門に使ったAwodey本くらいは買っておいてもよかったかもしれない。


圏論の入門書(2018年版)」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 圏論の本 | 雑記帳

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です