「0の0乗」については、数学をやっている人とそうじゃない人で割と認識に差がありそうだと思う。そこで、(まだ青二才の学生ではあるが)数学をやっている者の端くれとして思うことを書いておく。
まず、(たぶん)世間でよく言われている「0の0乗を1とすべき理由」と「0の0乗が不定となる理由」について述べ、それを踏まえて、数学をやる上での「それでも0の0乗を1とする理由」を述べる。 続きを読む
「0の0乗」については、数学をやっている人とそうじゃない人で割と認識に差がありそうだと思う。そこで、(まだ青二才の学生ではあるが)数学をやっている者の端くれとして思うことを書いておく。
まず、(たぶん)世間でよく言われている「0の0乗を1とすべき理由」と「0の0乗が不定となる理由」について述べ、それを踏まえて、数学をやる上での「それでも0の0乗を1とする理由」を述べる。 続きを読む
最近、豊穣圏(enriched category)という概念に触れることがあって、それの標準的な教科書って何かなあと思ったら、G.M.Kelly “Basic Concepts of Enriched Category Theory”というのがそれっぽくて、しかも無料でPDFをダウンロードできるらしい。
MacLaneのCWMには豊穣圏の名前といくつかの例は出てくるけどちゃんとした定義は出てこない。まあ、ちゃんとした定義を書こうとするとモノイド圏(monoidal category)の定義をしてうんたらしないといけないようだが。
豊穣圏というのは(今の自分の理解で)大雑把に言うと、圏のhom-setに単なる「集まり」以上の構造が入ったものである。例えば、加群の圏には、それぞれのhom-setにアーベル群の構造が入っているので、アーベル群の圏 Ab でenrichされた圏の例となっている。
別の例を挙げると、各hom-setにゼロ射が入っている圏は、それぞれのhom-setに点つき集合の構造(ゼロ射が基点)が入っているとみなせる。つまり、ゼロ射を持つ圏は、点つき集合の圏 Set* でenrichされた圏と言える。
各hom-setに構造が入っていればいいというものではなくて、Ab-enriched categoryだと射の合成が双線形、Set*-enriched categoryだとゼロ射(hom-setの基点)を合成するとゼロ射、という風に、合成の方にも条件が付いてくる。この辺の条件を表現するのに、モノイド圏の構造が必要になる。
ガンマ関数とは、みなさんおなじみの、
を満たす \(\def\Complex{\mathbf{C}}\Complex\) 上の有理型関数である。\(\DeclareMathOperator\Re{Re}\Re z>0\) に対しては、以下の積分表示がある。\[
\Gamma(z)=\int_0^\infty t^{z-1}e^{-t}dt
\]
階乗 \(n!\) との関係は\[
n!=\Gamma(n+1)
\]となる。
重要な公式としては、反転公式\[
\Gamma(1-z)\Gamma(z)=\frac{\pi}{\sin\pi z}
\]がある。特に、\(z=\frac{1}{2}\) とおけば \(\Gamma\left(\frac{1}{2}\right)=\sqrt{\pi}\) が得られる。
さて、コンピューターでガンマ関数の値を数値的に計算するにはどうすればいいのか。指数関数とか三角関数だとかは分かりやすい冪級数表示があったから良かったが、ガンマ関数にはそういうのはないのか。
いろいろググって調べた結果、ガンマ関数の近似方法として、Lanczos近似というのがあるらしい。が、ググっているだけではいまいちその実体が釈然としないし、導出方法もよくわからない。なので、Lanczosの原論文(1964)を読むことにした。大学院生という身分は便利なもので、大学の図書館でその論文にアクセスできた。
f(z)=\frac{az+b}{cz+d},\quad \text{ただし \(ad-bc\ne0\).}
\]分母が0になるとき(\(z=-d/c\) のとき)は \(f(z)\) の値は複素数としては定まらない、のだが、値が複素数であることにこだわらなければここは \(\infty\) としておくのが都合がいい。逆に、\(z=\infty\) のときは、(\(z\to\infty\) の極限を考えれば分かるように)\(f(z)\) の値は \(a/c\) として定義できそうである。何がいいたいかと言うと、一次分数変換は、複素平面の関数というよりは、複素平面に「無限遠点」を加えたもの \(\Complex\cup\{\infty\}\) の関数をみるのが自然である。
複素平面に無限遠点を加えたもの \(\Complex\cup\{\infty\}\) は、球面と同一視できる(こうやって同一視したものをリーマン球面という)。球面上の点 \(P\) に複素平面の点 \(z\) をどう対応させるかというと、球の北極 \((0,0,1)\) から \(P\) に直線を引いて、その直線が複素平面と交わる点 \(z\) を対応させる。逆に、複素平面の点 \(z\) に対しては、\(z\) と北極 \((0,0,1)\) を結ぶ直線を引いて、それが球面と交わる(北極じゃない方の)点 \(P\) を対応させる。北極に対応する点は複素平面上にはないので、北極には無限遠点 \(\infty\) を対応させる。この対応を立体射影(stereographic projection)という。
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この記事に書いたやり方がおそらく正攻法なのだろうが、次元が低い時はもっと短い議論でできるんじゃないかなあと思った。
特殊直交群 \(SO(n)\) が(弧状)連結であることを示すのは今回は \(\mathbf{R}^3\) のベクトル積とか回転行列とかに関する覚え書き。割と初等的。大学2年ぐらいのレベルだろうか。オチはない。
3次の実正方行列全体の集合を \(M(3,\mathbf{R})\) で表す。3次の特殊直交群 \(SO(3)\) を\[
SO(3)=\{A\in M(3,\mathbf{R})\mid\det A=1,~{}^tAA=I\}
\]で定める。特殊直交群の元はいわゆる回転を表す行列である。
3次の交代行列全体の集合を \(\mathfrak{so}(3)\) で表す。\(\mathfrak{so}\) は小文字のsoをフラクトゥールで書いたものである。\[
\mathfrak{so}(3)=\{X\in M(3,\mathbf{R})\mid X+{}^tX=0\}
\]\(\mathfrak{so}(3)\) は3次元の実線形空間であり、\begin{align*}
E_1&=\begin{pmatrix}0&0&0\\0&0&-1\\0&1&0\end{pmatrix},&
E_2&=\begin{pmatrix}0&0&1\\0&0&0\\-1&0&0\end{pmatrix},&
E_3&=\begin{pmatrix}0&-1&0\\1&0&0\\0&0&0\end{pmatrix}
\end{align*}は一組の基底となっている。\(\mathfrak{so}(3)\) の元 \(X\in\mathfrak{so}(3)\) は実数 \(a,b,c\in\mathbf{R}\) により\[
X=\begin{pmatrix}0&-c&b\\c&0&-a\\-b&a&0\end{pmatrix}=aE_1+bE_2+cE_3
\]と書ける。
11月22日から24日にかけて行われた東京大学駒場キャンパスでの第65回駒場祭で、数学科有志による「ますらぼ」企画(@UTmathlabo)に参加していました。「ますらぼ」では、数学科生・院生による発表、我々で作った冊子の配布、それから数学に関する展示が行われていました。
私は、かねてから作っていた複素関数を視覚化するWebアプリケーション “Conformality” に関する記事を書いたり、展示をしたりしていました。
冊子には、いくつかの複素関数の例・解説と、Webアプリの舞台裏に関する記事を書きました。一方、展示では、いくつかの複素関数の例・解説をポスター(というほどの紙の大きさでもない)で貼ったのと、パソコンとタブレットを用意して実際にWebアプリを動かしながら解説するのをやりました。
来場者に解説するとき、聞き手のレベルに合わせて話して、分かってもらうのは楽しかったです。実際どのぐらい理解してもらえたかは不明ですが…。あと、ふだんあまり喋らないので声が枯れました。
具体的に、レベルに応じてどんな内容を話したかというと、
小学生(!)
中学生
高校生
大学生
という感じでした。
教える関数としては、当初は一次分数変換が一番単純かなあと思いましたが、高校生を視野に入れるなら複素数のかけ算(拡大縮小と回転)からやった方が学習の役にも立つだろうと思って、冊子やポスターでは最初に複素数のかけ算の例を載せました。しかし、実際に人に教えるときはもっと初歩的な、複素数の足し算の幾何学的意味(平行移動)から始めたので、他人への解説の仕方というのは自分だけで考えてもわからないものだということを認識しました。
解説内容はそのうちこのブログかどこかに載せたいと思います(時間があれば)。
余談として、「ますらぼ」の教室では学内無線LANが使えないので、Webアプリケーションを動かすには工夫が必要でした。持ち込んだ機器は
で、MacでWebサーバーを動かしてWebアプリケーションを動かす感じにしました。URLは本来の “https://miz-ar.info/webapp/conformality/” で動いているように見せたかったので、MacBookとNexus 7で d-poppo.nazo.cc がMacBookのIPアドレスに解決されるようにしました。
ドメイン名に対して好き勝手なIPアドレスを割り当てるためには /etc/hosts をいじるのが手軽な方法だと思います。しかし、Androidの場合は /etc/hosts をいじるにはroot権限を取る必要があり、調べてみたところ思いの外危なそう&面倒くさそうだなあと思ったので、代わりに手元でDNSサーバーを動かすことにしました。MacBookにはDNSサーバーのソフトウエア(BIND9)が搭載されていた(最新のOSXにはないらしい)のですが、駒場祭直前にBIND9の使い方なんて覚えられない…。と思っていたらWebminとかいう便利なツールがあることを知ったので軟弱者の私はそれでBIND9を設定しました。めでたしめでたし。
目次
ベジエ曲線とはWikipedia(英語版)によると(本当はちゃんとした文献を当たるべきなのだろうが)、\(n+1\) 個の点 \(x_0, x_1, \dots, x_n\) が与えられた時に\[
B(t)=\sum_{i=0}^{n}\binom{n}{i}t^i(1-t)^{n-i}x_i, \quad 0\le t\le 1
\]で定まる曲線らしい。始点 (\(t=0\)) は \(x_0\)、終点(\(t=1\))は \(x_n\) である。\(n\) のことを次数という。
(1次の場合は単なる線分なので置いておいて)よく使われるのは2次の場合と3次の場合である。それぞれ\begin{align*}
\mathit{quadratic B\acute{e}zier}(t)&=(1-t)^2x_0+2t(1-t)x_1+t^2x_2, \\
\mathit{cubic B\acute{e}zier}(t)&=(1-t)^3x_0+3t(1-t)^2x_1+3t^2(1-t)x_2+t^3x_3
\end{align*}で与えられる。
2次の場合は始点 \(x_0\) と終点 \(x_2\) の他に1個の制御点 \(x_1\)、3次の場合は始点 \(x_0\)、終点 \(x_3\) の他に2個の制御点 \(x_1\), \(x_2\) によって決まる。制御点は始点及び終点における接線を与えるためにある。ここではベジエ曲線についてはこれ以上突っ込んだ事は取り扱わない。
こういう、「制御点を与えて曲線を描く」のは、ドロー系の描画ソフトウエアを使ったことのある方はおなじみだろう。SVGやPostScriptなどのベクター画像形式でも、ベジエ曲線は基本的な描画対象である。
プログラミングに関して言うと、大抵のグラフィックAPIには2次か3次のベジエ曲線を描画するAPIがある。例えば、HTML5 Canvasの場合は
context.quadraticCurveTo(cpx, cpy, x, y) /* 2次 */ context.bezierCurveTo(cp1x, cp1y, cp2x, cp2y, x, y) /* 3次 */
というAPIがあり、Cocoaの場合は
NSBezierPath -(void)curveToPoint:(NSPoint)aPoint controlPoint1:(NSPoint1) controlPoint2:(NSPoint)controlPoint2 /* 3次 */
というAPIがある。いずれも始点を指定する引数がないが、これらのAPIを使った時の始点は「現在の点の位置」になる。つまり、最後の描画操作における終点か、あるいはmoveToなどのAPIを使って指定した点である。
さて、滑らかな曲線 \(f\colon[0,1]\to\mathbf{R}^2\) をベジエ曲線で近似するということを考えよう。動機としては例えば、プログラミングで曲線を描きたい時に、大抵のグラフィックスAPIには任意の曲線を描画するようなAPIはないので(2次か3次の)ベジエ曲線を使って近似する事になる。2次か3次と書いたが、以後3次のベジエ曲線で近似する事を考える。