初めての輪行旅

サイクリングに行ってきた話を書く。

自転車の購入

今年の5月、筆者が大学入学以来7年間使っていた自転車(ママチャリ)がダメになった。金属の疲労だか劣化だかでカゴが外れたのだ。チューブ、タイヤ、ブレーキシューとあちこちを取り替えてだましだまし使ってきた自転車だが、流石にこれ以上延命しても仕方がないだろう。

新しい自転車を買うならスポーツ自転車(スポーツバイク)がいい。筆者はそう決めていた。理由はいくつかあるが、構造が簡単で分解がママチャリよりも楽であること(筆者はママチャリの車輪を取り外したことがあるが、死ぬほど面倒くさい)、そして、輪行ができることが大きい。

輪行。鉄道などの公共交通機関を利用して解体した自転車を運ぶことである。一部の地方私鉄では「サイクルトレイン」と言って解体しない自転車をそのまま持ち込むことが認められることがあるが、JRやその他の鉄道会社はそうではなく、自転車を運ぶには解体した上で袋に収納する必要がある。輪行ができるためには、自転車を簡単に解体できる必要がある。

その時点ではスポーツバイクに関して筆者は無知だったので、ネットで調べたり入門書を買ったり友人に聞いたり自転車屋の店員に聞いたりして勉強した。結果、スポーツバイク入門に適していそうな、クロスバイクを買うこととした。スポーツバイクの入門機が5、6万とすると、そういえば一眼レフの入門機もそれくらいだった。

ママチャリと違ってこういう自転車はシンプルなもので、カゴもなければ後方の泥除けもない。前照灯やスタンドも別売りだ。その代わりに車体が軽く、気持ちよく走行できる。

それから半年間、普段使いの傍ら、リアライトを付けたりサイクルコンピューターを付けたり、カスタマイズを施してきた。サイクルコンピューター(車輪の回転数からスピードを算出してくれるやつ)を取り付けたことで時速30kmは出せるということがわかり、安全のためにヘルメットも買った(うちの親父が好きそうな工事現場用(?)のやつではなくて、自転車用のかっこいいやつ)。

新しい自転車を買って数ヶ月経ち、そろそろ購入当初からの目標である輪行をしたい。ということで準備を始めた。輪行に何が必要なのか調べ、輪行袋、エンド金具、フレームカバーなどを買う。自転車を買った自転車屋はそこまで品揃えがいいとは言えなかったので、通販や渋谷のハンズ(筆者の生活圏内ではそこが一番品揃えが良さそう)を使った。家の近くで分解と組み立ての練習もしたが、初めてだからか、一回40分くらいかかった。

輪行旅の計画

輪行の準備は整った。では、記念すべき初輪行旅でどこに行くか。

筆者は東京に住んでいるので、行くなら関東近郊のどこかだ。北関東、房総、富士山麓…。行きたいところはたくさんあるが、今回は筆者が前から気になっていた、「つくばりんりんロード」に行くことにした。

筆者の趣味の一つは鉄道なので、各地にある主な廃線跡は把握している。そのうちの一つが、茨城県の常磐線土浦駅から筑波山麓を通り水戸線岩瀬駅に至る筑波鉄道の跡地であるが、そこが自転車道として整備されているらしい。これは自転車趣味と廃線趣味を両立できてお得そうだ。サイクリングコースとして休憩所なども整備されているようで、初心者にも安心である。

(廃線跡を転用した自転車道というのは時々見かける。筆者の地元にもあった。鉄道の線路跡というのは自動車だと1車線くらいにしかならないのでそのまま車道にしてもあまり嬉しくないが、自転車なら十分に対面通行ができる。他の利用方法としては、バス専用道や、あるいは隣接する土地ごと道路用地にする、というものもある。)

自転車道をどちらからどちらに進むかという問題があるが、今回は北から南に進むことにした。理由としては、その方がわずかに下り勾配であること、南側の土浦の方が都会なので走った後に飯屋等にありつきやすそう、あと霞ヶ浦を見てぼーっとできること、などが挙げられる。

初めての輪行旅

10月の晴れた週末、8時前に家を出る。最寄駅で自転車を解体し、輪行袋に入れる。今度は30分強かかった。輪行袋を肩にかけて電車に乗るが、この状態ではかなり歩きにくい。

筆者は登山をやっていて、20kgくらいの荷物を背負うこともある。それに比べて今回の自転車は、重量的には10kg程度で大したことはないのだが、登山のザックとは違って背中に背負えず、片方の肩に負担をかけてしまう。そのことが動きやすさに影響しているのだろう。

湘南新宿ラインで北上し、小山駅で水戸線へ乗り換える。10時45分に岩瀬駅へ到着。もっと早い時間に家を出ればもっと早く着いただろうが、まあいい。自転車を組み立てる。

岩瀬駅

輪行袋に入れた自転車

今度の組み立ても30分以上かかった。時間がかかる部分がだんだん見えてきた気がする。家に帰ったら対策を考えよう。

自転車道の始点は、駅の裏側である。かつては筑波鉄道の駅(ホームと線路)があったのであろうスペースに、駐車場やトイレ、ベンチなどが整備されている。「土浦(終点)まで40km」という看板もある。11時半ごろ、スタートする。

駅裏、広場

土浦(終点)まで40km

コースは鉄道特有の緩いカーブを描いて南下していく。この時点で筆者は大興奮である。

面白いと思ったのは、狭い道路との交差点である。普通は自転車道の方も一時停止になりそうなものだが、ここは狭い道路の方のみが一時停止で、自転車の方は(減速は必要だろうが)そのまま通り抜けられるらしい。もちろん、大きな道路が相手では、自転車道側にバリケードがあって自転車は一時停止しなければならない。

自転車道の側には「止まれ」のサインはない

それにしても気持ちの良いコースだ。サイクルコンピューターを見ると、時速30km台である。これは頑張れば時速40km出るのではないだろうか。気合いを入れて漕ぐと本当に時速40kmに到達した。おそらく下り坂か追い風だったのだろうが、それだけではこの速度は出せない。見通しや舗装状態の良さが効いているのだろう。

ところどころ、廃プラットホームの横を通りかかる。それも一つや二つではなく、大半の駅のプラットホームが残っているようだった。鉄道趣味的には嬉しいが、いちいち立ち止まって写真を撮っていると余計な時間を食ってしまう。

雨引休憩所

雨引休憩所

いくつかの駅跡は休憩所として、ベンチやトイレ、駐車場などが整備されている。かつては乗降客で賑わい、対向列車の待ち合わせなんかもあったのだろう場所に、今はサイクリストと散歩中の近隣住民が立ち寄っている。

真壁休憩所

真壁休憩所

沿道や駅跡には、桜か何かの木が多く植わっている。春先に来たら綺麗だろう。

筑波山が近くなってきた頃、自転車道は歩道付き2車線道路に飲み込まれた。廃線跡が道路用地に利用されたパターンだ。サイクリングロードとしては、途切れたように見えるのであまり嬉しくない。自転車道はもう少し進んだところで車道の反対側から分岐していた。

自転車道の分岐

そうこうしているうちに筑波山の麓、旧筑波駅である。自転車道のこの辺の区間は、以前筑波山に登った時にバスの中からも見えた。駅跡はサイクリストの休憩所となっているほか、「筑波山口」バスターミナルとして今も交通の結節点である(筑波山に登った時のTXつくば駅からのバスはここを経由しなかったが)。レンタサイクルの営業もあり、自分の自転車を持ち込まなくてもサイクリングを楽しめるようだ。

筑波山口バスターミナル

旧筑波駅

旧筑波駅に着いたときにはそろそろお昼で、小腹が空いてきた。旧筑波駅の前になんとか製麺所というのがあるようだったが、あまりラーメンの気分ではない。結局、もう少し進んだところのコンビニでパンとおにぎりを買った。

筑波山

ところで、休憩所には、少し高い位置に水平な棒を渡した物体が置いてあった。鉄棒のようでもあるが、明らかに人間用ではない。自転車のサドルの部分を引っ掛けている人が見受けられた。

その場では気づかなかったが、あれはスタンドの付いていない自転車を「置く」ために存在するのだ。筆者のクロスバイクにはキックスタンドが付いているし、輪行の際にもわざわざ外してから再装着したが、自転車のスタンドはそこまで重要じゃないという考えもあるだろう。そういう場合、自転車に乗らない時はどこかに立てかけるか、横倒しにするかするわけだが、鉄棒のような棒があればそこにサドルを引っ掛けられる。なるほど便利そうだ。

もうしばらく進むと、駅跡に新しい建物が建っている。この建物は休憩所兼歴史紹介施設、というような感じで、近くにある「小田城趾」の歴史に関することが展示されていた。鎌倉時代から戦国時代にかけてこの辺を支配していた一族が住んでいたらしい。自転車道はその城趾を通っている…というか筑波鉄道は城趾、それも本丸部分をぶち抜いていたようだが、自転車道は本丸部分を迂回している。

お城というのは大抵街の中心でもあったわけで、城趾の一部に鉄道を通すパターンはたまにある。しかし、本丸をぶち抜くというのは珍しい。鉄道建設当時は史跡の保存という観点はあまりなかったのだろうか?そんなことを考えながら、自転車で堀の横を走り抜ける。

旧田土部駅

旧田土部駅(土浦市)

土浦市に入り、距離の上では終点に近くなってくる。これが最後の休憩か、と思いながら藤沢休憩所(旧藤沢駅)で休む。足の筋肉に疲労が溜まっているのが感じられる。走り始めは(下り勾配というのもあるだろうが)時速30kmくらいは余裕だったが、このところは時速20kmを超えるのが良いところだ。

藤沢休憩所

藤沢休憩所

藤沢駅

休憩を終え、出発しようとしたタイミングで女子中学生のサイクリスト集団が通りかかった。結構多い。彼女らよりも先に出れば良かったのだろうが、後になってしまった。前に集団がいるのではあまり伸び伸びとしたサイクリングとは言い難い。サイクリングロードも渋滞するのか。

幸い、自転車道の隣には車通りの少ない二車線道路が並行していた。集団を追い越そうと思えば追い越せる。実際、ロードバイクのおっさんが追い越していった。それを見て意を決し、自分も二車線道路へ移る。

疲れた足に鞭打って自転車を漕ぐ。時速30km。なんとか集団を追い越し、自転車道に戻る。二車線道路は高速道路をくぐったあたりで途切れていた。道理で車通りが少ないわけだ。

自転車道と2車線道路

常磐自動車道の次に国道のバイパスをくぐれば、そろそろ土浦市街だ。時間的にも、日曜日のサイクリングを終えるには良さそうな時間帯だ。中学生の集団以外にも、家族連れなどがいて自転車道は混んできたように感じる。

虫掛休憩所

新土浦駅

ただ、みんな霞ヶ浦方面に行ったのか、サイクリングロードの分岐を過ぎて川を渡ると他のサイクリストはいなくなった。筆者はこのまま土浦駅に出る。

霞ヶ浦方面への分岐を過ぎて、土浦駅方面へ

土浦高架道

川口川閘門の鉄扉と揚水ポンプ

霞ヶ浦

これで筑波鉄道の廃線跡はほぼ走破したわけだが、日没までにはもう少し時間がある。とはいえ、霞ヶ浦沿いのサイクリングロードを新たに走りに行くほどではない。何より今日は疲れてしまった。必要なのは温泉と食事だ。

前者は霞ヶ浦沿いに少し走ったところに日帰り入浴施設があるようなのでそこを使った。値段も410円とリーズナブルである。

霞ヶ浦沿いを走る

筑波山

浴室の窓からは霞ヶ浦が見えるが、露天はない。それにしても、湯に浸かっていると眠すぎて寝そうになる。長湯は危険だ。さっさと出よう。

余裕があれば常磐線沿いに数駅走ろうか、なんとことも考えていたが、お湯に浸かっていると外はすっかり暗くなってしまった。土浦駅から電車に乗ることが決定する。

夕食は駅ビルのチェーン店で適当に済ませる。駅ビルの1階には自転車屋が入っており、レンタサイクルやら修理やら、いろいろやっているようだった。駅ビルのそこそこの面積を使って自転車屋を入れるとは、サイクリングにかける気合いが伝わってくる。

PLAYatré

駅ビル1階の自転車屋

茨城県がサイクリングに力を入れていることは分かったが、今日はもう帰るだけだ。再び自転車を解体し、電車に乗り込んで東京に帰る。疲れた体に缶コーヒーがうまい。あと電車は自分で漕がなくても走ってくれるので神。

駅からサイクリング

帰りの輪行はそれぞれ30分足らずで分解・組み立てできた。少し成長したと言えるだろうか。

今後

今回ので、輪行旅の雰囲気がつかめた。平坦なルートという条件付きだが、自転車旅でどれくらい走れるのかの体感も得られた(長めの休憩込みの4時間で40km)。もっと早い時間に出発すればもっと走れるかもしれないが、休憩の取り方が大事になるだろう。また、登り坂を含むコースだと時間や疲労度は変わってくるだろう。

いずれにせよ、次の旅が楽しみである。