縁あって、MathPower 2016 というイベントの企画の一つ(Math.pow() 〜 6名のプログラマが語る「数学のチカラ」)でライトニングトークさせていただいた。
目次
発表について
発表に使ったスライドは、以下のURLから参照できる。(動画を多用しているので、もはや「スライド」ではない。また、HTML版では一部の動画がうまく再生されないようだ)
https://miz-ar.info/math/complex-functions-mathpower2016/
LTで紹介したWebアプリ自体は、2年ほど前に作ったやつで、過去に大学の学園祭でも展示したことがある:
今回の発表では、聴衆は数学に興味のある一般人ということで、高校生・大学初年次レベルの複素数の基礎的な知識や初等関数についてのことは予備知識として仮定した。まあ、話の内容がわからなくても、最悪、雰囲気をつかんでもらえれば良い。「一次分数変換というものがあるのか!」とか、「複素数の三角関数と楕円・双曲線が関係あるのか!」という感じで。
アプリの技術的な点について
「Webアプリ」と言っているが、サーバー側では状態を持たない(サーバー側での処理は、入力された数式の解釈だけ)ので、ほぼ静的なWebページと言っても良い。クライアント側の処理(入力と計算と描画)はTypeScriptで実装し、サーバー側は数式の解釈とJavaScript及びMathMLへの変換を行うCGIをHaskellで実装している。
ちなみに、姉妹アプリ(便宜的に「アプリ」と言ってはいるが、実態は完全に静的なWebページ)である「たのしい複素積分」のソースコードはGitHubで公開している→ https://github.com/minoki/singularity
今後の展開について
Web版だけではなくて、パソコン向けのネイティブアプリも作ろうと思っているが、自分の理想が高すぎるのか、なかなかリリースに至らない。実際のところ、最初に開発を始めたのはMac版で、開発開始はWeb版の1年半ほど前である。スライドの「発展」に載せたスクリーンショットはMac版のものだ。
しかし、どこかで区切りをつけてリリースしないと、このままでは陽の目を見る日が来るのか怪しい。
(以下、発表当日夜の追記)
関連書籍
もっと知りたい、勉強したい、という人のために、本をいくつか紹介しておくのが親切であろう。
高校生や大学初年次の学生には、上野先生の「複素数の世界」(日本評論社、1999年)が読みやすいのではないかと思う。書店で入手困難な場合は、図書館で借りるという手もある(図書館にもなかったら、それっぽいキーワードを含む本を適当に探すべし)。同じシリーズの「xのx乗のはなし」もバリバリ複素解析の話題なので、もし見つけたら手に取ってみると良いだろう。
数学科の学生が真面目に複素解析を学ぶ際には、 Ahlfors の教科書 (Complex Analysis) が定番だろう。邦訳もある。複素解析の教科書は他にも色々あるので、適当に自分で見繕ってほしい。
(数学書は書名が分野名そのまんまなことが多く、書名だけでは本を一意に特定できないので、書名の代わりに著者名で呼ばれることがしばしばある。)
発表を終えて
機材トラブルについて
ニコ生のコメントに「Macだから〜」というようなコメントがちらっと見えたが、Macだから問題が起こったというわけではない。リハーサルでは問題なかったし、他の発表者もMac使いが多かったように思う。
反省があるとすれば、こういうトラブルが起こるのはやむを得ないとして、画面なしでも「場を持たせる」ような話題(発表の導入になるようなもの)を用意しておけば良かったと思う。高校数学における複素平面の扱いについての雑談とか、複素数・複素関数についてどの程度知っているか会場の人に聞いてみるとか。
Tシャツについて(※数学関係ない)
自分が着ていたTシャツは、ある程度話のネタになることもあるTシャツなのだが、まさかこの場で話のネタにすることになるとは思わなかった。
「2番じゃダメなんですか」系のネタとして「日本で1番高い山は誰でも知っているが、2番目は?」というネタがある。登山をやっている人なら上位5番目くらいまで知っていることが多い(要出典)ので、「2番目は北岳、3番目は〜」と返されるところまで含めてネタになることもある。5番目が槍ヶ岳 (3180m) というとても有名な山なので、5番目まで覚えるのがキリがいいのではないかと思われる。じゃあ6番目は…?
取り上げた話題についての補足
「『奇跡がくれた数式』の数学的予習」で関連する話題が出ていたので、時間が余れば関連づける話をしようかと思っていたが、時間が余らなかったので代わりにここに書いておく。
複素関数の例として一次分数変換を挙げたが、モジュラー云々の話は一次分数変換が関係する。
単位円に沿った積分でマイナス1の項が生き残って〜というのは、拙作「たのしい複素積分」で試すことができる。\(z^n\) の形の関数としては \(n=-2,-1,2\) を用意しているが、 \(n=-2,2\) の場合は一周して積分すると消え(値が0)、\(n=-1\) の場合は値が残ることを確かめることができる。
単位円に沿って一周するとLogの値が〜〜みたいな話題は、拙作「わくわく解析接続」が関係する。
(これ以上の詳しい解説はここでしても仕方ないので、しない)
(以下、ニコ生のタイムシフトを見た後の追記)
発表を終えて(2)
- 機材トラブルもあったし結構時間オーバーだったかな?と思ったが、案外、目安の15分ぴったりだった。
- カメラで講演者をアップで写されると、Tシャツの文字は結構目立つ。
- スライド3枚目「実関数の場合」に貼ったグラフが、誤操作か何かで移動してしまっていた。とはいえ、このスライドは本題に入る前の重要度が低い1枚なので、発表者を0.1秒動揺させる程度のダメージで済んだ。
- ニコ生の上部に「複素関数で遊ぼう」へのリンクを載せていただいていたようだ。スタッフさんの気が利いている。
- 猫派?→実家では犬は飼っていなかったが猫は飼っていた。しかし、最後に飼っていた猫が哀れな生い立ち&末路だったので、積極的に猫派を公言できるほど猫についていい思い出があるわけではない。
- しゃ、しゃ、喋りがアレなのはある程度自覚はあったが、や、やっぱり、うーん…。喋るよりもキーボードを叩く方が得意なのは間違いない。
- リーマンゼータとかの話も複素解析なので、そっち方向へも話を繋げられるように「わくわく解析接続」を強化すべきかもしれない(現状でのアレは「なんちゃって解析接続」なので)。
高校数学で複素平面についてどの程度扱うか
2年前に調べた感じでは、今の高校生は数学IIIの「複素数平面」で複素数の掛け算の幾何学的意味を学ぶらしい。オイラーの公式とか複素関数とかは高校では出てこないはず(私立の学校のことは知らん)。まあ、オイラーの公式は有名だし、数学に意欲的な高校生なら知っていても不思議ではない。
自分が高校生だった時は複素数平面がなくて代わりに数学C(行列を扱う)があった。指導要領に行列の代わりに複素数平面が入って、話をする上で嬉しいかというと、必ずしも手放しでは喜べなくて、「一次分数変換が行列と関係する」という話をできなくなる。複素数平面と行列の両方が入っていた方が良い。
高校や大学の教育現場で使ってみたよ!という報告は今のところ聞いていない。そもそも、このアプリを知っている人の絶対数が少ない。今回のイベントで多少知名度は上がったら良いが。
手前味噌リンク集
アプリ本体: https://miz-ar.info/webapp/conformality/
解説ページ「複素関数で遊ぼう」: https://miz-ar.info/math/complex-functions/
姉妹アプリに関する過去のブログ記事:
ピンバック: 「数学ソフトウェアの作り方」を読んだ | 雑記帳