SU(n) や特殊直交群 SO(n) が(弧状)連結であることは当たり前のようにバンバン使うけど自分でそらで証明できるか怪しいなあと思ったので、証明をつけてみることにした。
まず、記号の確認をしておく。M(n,\Real) で n 次の実正方行列、M(n,\Complex) で n 次の複素正方行列全体を表す。n 次の単位行列を I_n で書く。\Complex^n の標準的なエルミート内積を \ip{}{} で書く。\ip{}{} は左側について線形、右側について共役線形であるとする。行列 A に対し随伴 A^* は A の共役転置である。行列 A, 複素ベクトル x,y\in\Complex^n に対し \ip{Ax}{y}=\ip{x}{A^*y} である。任意のベクトル x,y\in\Complex^n に対しエルミート内積を保つ \ip{x}{y}=\ip{Ax}{Ay} ような行列 A をユニタリ行列といい、ユニタリ行列全体の集合を U(n)=\{A\in M(n,\Complex)\mid AA^*=I_n\} と書き、ユニタリ群という。ユニタリ行列の行列式は絶対値1の複素数だが、特に行列式が1のユニタリ行列の全体を SU(n)=\{A\in U(n)\mid \det A=1\} と書き、特殊ユニタリ群という。
ユニタリ行列 P によって A を P^{-1}AP=\begin{pmatrix} e^{i\theta_1}&&\\ &\ddots&\\ &&e^{i\theta_n} \end{pmatrix} と対角化したとする。
t\in[0,1] に対し F(t)=P\begin{pmatrix} e^{i\theta_1t}&&\\ &\ddots&\\ &&e^{i\theta_nt} \end{pmatrix}P^{-1} とおくと、F(t)\in SU(n) となる。F がこの定理の主張にある連続写像であることは明らか。
再び記号の確認。\Real^n の標準的な内積も \ip{}{} で書く。行列 A の転置を \transpose{A} で書く。行列 A, ベクトル x,y\in\Real^n に対し \ip{Ax}{y}=\ip{x}{\transpose{A}y} である。任意のベクトル x,y\in\Real^n に対し内積を保つ \ip{x}{y}=\ip{Ax}{Ay} 行列 A を直交行列といい、直交行列全体の集合を O(n)=\{A\in M(n,\Real)\mid A\transpose{A}=I_n\} と書き、直交群という。直交行列の行列式は \pm1 だが、特に行列式が1の直交行列の全体を SO(n)=\{A\in O(n)\mid \det A=1\} と書き、特殊直交群という。
A が実数の固有値を持つとしたら \pm1 である。A の固有多項式の根 -1 の重複度を p,1 の重複度を q とする。A の行列式は1なので、p は偶数である。
A は複素数の範囲で対角化可能なので、\Complex^n の正規直交基底 u_1,\dots,u_m,v_1,\dots,v_m,w_1,\dots,w_p,x_1,\dots,x_q\in\Complex^n であってそれぞれ A の固有ベクトルであるようなものが取れる。固有値と固有ベクトルの関係は次のようにする。\begin{gather*} Au_j=e^{i\theta_j}u_j,~Av_j=e^{-i\theta_j},\quad(1\le j\le m)\\ Aw_k=-w_k,~Ax_l=x_l\quad(1\le k\le p,~1\le l\le q) \end{gather*}ここで、 A が実行列ということを考えると、特に v_j,w_k,x_l を v_j=\overline{u_j},\quad w_k\in\Real^n,\quad x_l\in\Real^n となるように取れるので、以下そのように v_j,w_k,x_l を取ったとする。
1\le k\le m に対し、e_{2k-1} と e_{2k} を\begin{align*} e_{2k-1}&=\frac{u_k+v_k}{\sqrt{2}}, \\ e_{2k}&=\frac{i(u_k-v_k)}{\sqrt{2}} \end{align*}とおく。このとき、\begin{align*} Ae_{2k-1}&=\frac{Au_k+Av_k}{\sqrt{2}} =\frac{e^{i\theta_k}u_k+e^{-i\theta_k}v_k}{\sqrt{2}} \\ &=\frac{\cos\theta_k(u_k+v_k)+i\sin\theta_k(u_k-v_k)}{\sqrt{2}} \\ &=\cos\theta_k e_{2k-1}+\sin\theta_k e_{2k}, \\ Ae_{2k}&=i\frac{Au_k-Av_k}{\sqrt{2}} =i\frac{e^{i\theta_k}u_k-e^{-i\theta_k}v_k}{\sqrt{2}} \\ &=i\frac{\cos\theta_k(u_k-v_k)+i\sin\theta_k(u_k+v_k)}{\sqrt{2}} \\ &=-\sin\theta_k e_{2k-1}+\cos\theta_k e_{2k} \end{align*}となる。また、e_{2k-1},e_{2k}\in\Real^n である。
このとき、 e_1,\dots,e_{2m},w_1,\dots,w_p,x_1,\dots,x_q は \Real^n の正規直交基底であり、 P=\begin{pmatrix} e_1&\cdots&e_{2m}&w_1&\cdots&w_p&x_1&\cdots&x_q \end{pmatrix}\in O(n) とおくと AP=P\begin{pmatrix} \cos\theta_1&-\sin\theta_1 \\ \sin\theta_1&\cos\theta_1 \\ &&\ddots \\ &&&\cos\theta_m&-\sin\theta_m \\ &&&\sin\theta_m&\cos\theta_m \\ &&&&&-I_p \\ &&&&&&I_q \end{pmatrix} となる。
スペースの節約のために R(\theta)=\begin{pmatrix} \cos\theta&-\sin\theta \\ \sin\theta&\cos\theta \end{pmatrix} とおき、 m’=m+\frac{p}{2},\quad \theta_{m+1}=\dots=\theta_{m’}=\pi とおけば、 AP=P\begin{pmatrix} R(\theta_1) \\ &\ddots \\ &&R(\theta_{m’}) \\ &&&I_q \end{pmatrix} と書ける。
ここまで分かれば後は簡単で、t\in[0,1] に対し F(t) を F(t)=P\begin{pmatrix} R(t\theta_1) \\ &\ddots \\ &&R(t\theta_{m’}) \\ &&&I_q \end{pmatrix}P^{-1} とおくとこれは F(t)\in SO(n) となっていて、連続写像 F\colon[0,1]\to SO(n) を定める。F(0)=I_n,~F(1)=A は明らかなので、F はこの定理が存在を主張する連続写像である。
なんで SU(n) や SO(n) の連結性を示したいのかということについて一言。写像 f\colon X\to Y が全射であることを示したいが、Y の元に対する逆像を X から取ってくるのが面倒な場合がよくある。そんなとき、空間 X や Y が連結なら、写像の位相的性質でごにょごにょして f が全射であることが言えるのだ。だから空間の連結性というのは大事な性質なのだ。
行列の言葉はいちいち定義を確認するのに位相空間の言葉は断りなく使っているのはアレな気がするがまあ気にしない。
参考: 齋藤正彦「基礎数学1 線型代数入門」東京大学出版会,1966年